平成16年1月5日号 新年のご挨拶
世界平和の推進へ宗教協力を 五輪精神を支えた宗教性
家庭崩壊、少年非行を防ぐ道徳の砦に 本紙代表 前田外治
明けましておめでとうございます。 二〇〇四年の今年、オリンピックは百八年の歴史をめぐって、最初の開催地アテネに戻ります。
今に続く人類の夢を実現させたのはフランスの教 育家、シャルル・ド・クーベルタン男爵。スポー ツを通しての平和、道徳の促進がその願いでした。 「健全な民主主義、平和を愛する賢明な国際主義が新しいスタジアムを包み、無私と名誉の精神をその場に育むでしょう。
そうした精神に助けられて、運動選手たちは肉体を鍛えるという務めを果たすのみならず、道徳教育、社会平和の促進にも一役買うことができるでありましょう。だからこそ、オリンピックを復興し、世界中の若者たちに友好と博愛の精神に包まれた出会いの場を提供しなければならないのです」 クーベルタンがこう演説したのは一八九四年、アテネにおいてです。一八一五年、ワーテルローの戦いでイギリスに破れたフランスは、それまでの勝利で得た領土すべてを失い、新興ドイツの脅威にさらされていました。そうした中、イギリスのパブリックスクールを視察したクーベルタンが、そのスポーツ教育に感銘を受けたのがオリンピック発想の契機とされています。八九年のパリ万国博覧会の成功なども背景にありました。
万国宗教会議に参加 しかし、注目すべきは一八九三年、シカゴで開かれた万国宗教会議に参加していることです。それが、国際主義の価値をクーベルタンの心に一層強く植えつけたといわれています。 同会議はコロンブスのアメリカ大陸発見四百年を記念して開かれた万国博覧会に合わせ、米国の自由主義神学者や知識人によって企画され、世界の異なった宗教指導者が平等の立場で討議する、史上初の超宗教会議でした。開催趣旨には、「おのおのの宗教が、世界の他の諸宗教に対して、いかなる照明を与えうるかを探求する」などと書かれています。中でもインドのヒンドゥー教や日本の仏教代表者の発言が注目を集め、結果的に、植民地支配下でおとしめられていた東洋の精神文明を、西欧社会に発信する契機となりました。例えば、臨済宗の釈宗演円覚寺管長の演説を英訳したのは若き鈴木大拙で、この縁が彼の渡米から世界での活躍、さらには禅仏教の欧米普及への道を開いたのです。 国連強化へ宗教協力 アテネ五輪は、高まるテロの危険や不透明なイラク情勢、出口の見えない北朝鮮問題など、平和には程遠い状況下で開催されます。こうした状況に、宗教はどのようなメッセージを発信できるでしょうか。 宗教間の相互理解では、一歩進んで死後の世界についての議論を深める必要があります。時としてそれが、自爆テロなどを生む背景となっているからです。一般的に、宗教は死の恐怖を克服するために生まれてきたと説明されますが、現代人の不安の深さを考えると、最も重要な問題について、まだ宗教は十分に役割を果たしているとはいえません。しかも、死後の問題についての説明が、諸宗教の間で大きく分散していることも、議論の深まりを妨げています。これには、最近の臨死研究の成果なども踏まえ、もっと総合的に議論していくべきでしょう。 また、世界平和を進める具体策としては、諸宗教の協力による国連の平和機能強化が急がれます。二〇〇〇年のミレニアム国連サミットに、世界の宗教指導者が集まり、宗教和解の会議を開きました。その関連で、国連の中に超宗教議会の設置が加盟国やNGO(非政府組織)から提案されています。こうした流れを受け継ぎ、具体化させていく必要があります。 さらに、先進国においても家庭の崩壊、少年非行の増加などは深刻で、社会を内部から崩壊させようとしています。私たちはそこにこそ最も大きな悪の働きを見なければなりません。これらに対し、宗教は道徳の砦(とりで)の役割を果たしていくべきです。 以上、アテネ五輪にちなんだ新年のごあいさつとさせていただきます。本年もご愛読を感謝しつつ、皆様のご健勝、ご発展を心よりお祈り申し上げます。
宗教界からの新春メッセージ
第62回神宮式年遷宮に国民総奉賛の誠を 神社本庁総長 工藤伊豆
年頭にあたり、皆様と共に謹んで皇室の弥栄を
寿ぎ、 新年の賀詞を申し上げます。 本宗と仰ぐ神宮の御事につきましては、諸事
順調に進捗されてゐる由承ってをります。
来る平成二十五年には第六十二回神宮式年遷宮
が斎行されますが、天皇陛下の御聴許を賜りま
した後には、諸事万端に諸準備が執り進められて
ゆくことと存じます。
新玉の年を迎へ、私たちは心も新たに、国民総奉賛の誠を捧げて参りたく、皆様方の更なる御理解と御協力をお願ひ申し上げます。 さて、本年貴紙創刊三十周年の佳節を迎へられましたこと、誠におめでたうございます。経済至上主義といふ杜会風潮の中で、宗教的情操の涵養は私たち宗教者の使命であります。その意味におきまして、今後の貴紙のご活躍を期待して止みません。結びにあたり、読者の皆様方の御健勝を祈念申上げ、新年の御挨拶とします。
群生を荷負して重檐となす
大本山善光寺大本願法主 鷹司誓玉
日本が少子高齢化して来たのは年代的にそう遠い昔から
ではありません。
戦後而も経済の高度成長期といわれたのとほぼ同じ頃か
らであり、現代社会はまだまだ対応のしかたを模索してい
る状態であります。それ故孤老・孤独死・老々介護・
老夫婦心中など悲しい事件もあとを絶ちません。お年寄り
や障害をもった方たち
が安心して暮らせる真の福祉社会を築いていくのが私共の願い
であり急務でもあります。 人はいつの時代にも四つの苦しみ(生老病死)の不安をかかえ、様々な欲望煩悩(何よりも生命への執着)こだわりという重荷を背負って生きて来ました。その人生の重荷を手代りして下さるのが佛であり無量寿経には「群生(ぐんじょう)を荷負して重檐(じゅうたん)となす」と説かれました。
この佛語を味わい我が心として実践につとめ、世界中に慈しみの心を伝え「共生き」を目ざしたいと念願して居ります。
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