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  平成17年2月5日号社説
 

大人こそ絵本を

 作家の柳田邦男さんが大人も絵本を読むよう勧めている。読んでいるうちに、小さいころ母親に読んでもらった記憶が蘇り、自分の心が耕される、という。

命の授業
 そこで読んでみたのが『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ作・絵、 小川仁央訳、評論社)。アナグマを主人公にした本書は、「身近な人を失った悲しみを、どう乗り越えていくのか」がテーマ。賢くて、いつもみんなに頼りにされているアナグマだが、冬が来る前に「長いトンネルの むこうに行くよ さようなら アナグマより」という手紙を残して死んでしまう。悲しみに暮れる森の動物たちは、それぞれがアナグマとの思い出を語り合ううちに、彼が宝物となるような知恵や工夫を残してくれたことに気付いていく。そして、春が来る頃には、アナグマのことは楽しい思い出へと変わっていった。
 この絵本は昨年一月三日、がんのために亡くなった茅ヶ崎市立浜之郷小学校の大瀬敏昭校長が、「命の授業」で使ったものだ。大瀬校長は一九九九年十一月、進行性の胃がんと診断されて以来、日々やせ衰えていく自分の体を教材にしながら、小学生に命とは何かを教え続けた。死を宣告された大瀬校長は、絵本に出合って生きる勇気を与えられたという。
 大瀬校長が生徒たちに伝えようとしたのは、「命には限りがあること」「命を自分で縮めてはいけないこと」「神や家族、友達など、何か信じるものを持つこと」の三つだという。それも、授業で直接語るのではなく、触れ合いの中から子供たちが、それらのメッセージを受け取るようにした。子供たちは確かに、心の中で永遠に生き続ける校長先生を感じていたという。
 『100万回生きたねこ』(佐野洋子作・絵、講談社)は、むしろ大人のために書かれたような絵本だ。とらねこは、王様のねこ、漁師のねこ、女の子のねこ、おばあさんのねこ、サーカスのねこなどに生まれかわる。いつも飼い主に愛され、死んだときはいつも泣かれるのに、そのたびに飼い主をきらう。自分が最高だとうぬぼれていたからだ。あるとき、のらねこになった。大いにめすねこにもてるが、無頓着でいる。一匹の白い美しいねこがいて、彼に関心を示さないのを見て取ると、今度は彼は彼女の歓心を買おうとする。宙返りをしたり、いろいろ工夫した末にやっと一緒に住むようになり、子供が生まれ、子供がかわいくなってきた。自分以外のものを初めて好きになったのだ。…時がたつと白ねこが死ぬ。彼は初めて大泣きに泣く。そして時がたつと…彼も死ぬ。すると、この百万回生きたねこは、もう二度と生まれ変わることはなかった。
 何度も生まれ変わるのはむしろ苦痛で、愛し合う人と永遠に一緒にいることこそ最高の幸福であると教えているようだ。愛すること、信じること、それが心の永遠性を実感することにつながっている。
 柳田さんは、「絵本というのは、限られた絵と少ない言葉で象徴的に何かを示唆している。それは心の癒し、生と死、人生の本質だったりするのですけれども、子供の頃は漠然としか理解できなくても、大人になって改めて読むと、それが強く心に響いてくるんです。歳をとると『人生下り坂』と言われますが、心の世界は歳をとるにつれて放物線を描いて落ちていくのではなく、死ぬまで上昇を続けていく。そのためには忙しい毎日でもファンタジーの感性を失わないように、心を耕す心得が必要です」(読売新聞03年6月10日付)と述べている。

ファンタジーから宗教へ
 死ぬまで上昇し続ける心の世界を受け止めていたのが、かつては宗教だった。それが、戦後六十年を経て、急速に力を失ってきている。しかし、人間の構造や人生の在り方は、昔も今もそんなに違うものではない。例えば、いくら科学的に死を探求しようとしても、最後には何らかのファンタジーに結論を委ねるしかない。
 ならば童心に返って、もっとファンタジーの世界に遊んでみてはどうか。地獄に落ちる恐怖から信仰に至るよりも、ファンタジーから宗教にたどり着くのが、現代人の生きる道なのかもしれない。

クョスコニョ    [1] 
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