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  平成17年5月20日号社説
 

「自然の叡智」を再考する

 七日から二十年ぶりにアイルランドとノルウェーを訪問された天皇、皇后両陛下は九日、ダブリンで、ノーベル文学賞の詩人シェイマス・ヒーニーさんや世界的な人気歌手のエンヤ・ニ・ブレナンさんらと懇談された。
 日本でも人気のエンヤさんは、「お二人が私の音楽を聴き、私と会いたかったと言ってくれたことがうれしい」と感想を話したという。この社説も、彼女の歌を聴きながら書いている。
 
ケルトの調べ
 エンヤさんはアイルランドの古い伝統が残る小さな町でパブを経営する音楽一家に生まれた。十八歳で家族のバンドに参加し、二十歳で独立。デビューアルバムが八百万枚を超える大ヒットになった。ケルトの調べを古いゲール語で歌うことが多く、癒やし系の音楽として世界的に人気を博している。
 一九九八年に来日し、NHKの「おはよう日本」に出演したエンヤさんは「母国語というものは、自分の心から消し去ることのできない、とても大切なものです。だからこそゲール語で歌いたいのです。私のメロディーにもっともふさわしくて、自然な響きを持っているのがゲール語だったんです」「どうしてもアイルランドに戻りたくなる時があります。故郷ですから。それにアイルランドの風景こそが私に音楽のひらめきを与えてくれるのです」と語っている。
 私たちは心に感じたものを自分なりの手段で表現しようとする。それが物語であり、音楽、絵画である。表現することにより、私たちの感性はより確かなものとなり、さらに多くの人々に共有されることで、影響を広め、さらに優れたものとなってきた。
 「大人こそ絵本を読もう」と呼び掛けているノンフィクション作家の柳田邦男さんは十年前、五十八歳の時に二十五歳の二男を亡くしている。脳死状態が十一日続いた間に体験したことは、著書『犠牲(サクリファイス)』に詳しい。その後の呆然自失状態から抜け出すきっかけが一冊の絵本だったという。それが、物語の力なのかもしれない。
 物語とは、その名の通り古代から語り継いできたもので、読むのではなく語るものであった。神話作家の出雲井晶さんは、最初『古事記』を全く理解できなかったが、声に出して何度も読んでいるうちに、天啓のようにその意味が分かってきたという。語ることによって、深層にあった民族の記憶が呼び覚まされたのであろう。
 「自然の叡智」をテーマに開かれている愛知万博ではハイテクを駆使したロボットや映像が人気を集めているが、会場全体を素直に見ると、むしろ目立つのは自然であり、森であり、世界の多様な民族の文化だ。
 長久手会場の東ゲート近くに二千平方メートルの「千年の森」を出展した社叢学会の薗田稔副理事長は「ここでは何かを見るというより、中を歩きながら、森の静けさを味わってもらいたい」と語っている。外に豊かさを求めて限界を迎えている私たちに、もう一度心の中を見つめることの大切さを呼び掛けているようだ。
 
風景は祈り
 「風景は祈り」という言葉を残した日本画家の東山魁夷さんは、家業の破綻や家族の病気、自身の制作の行き詰まりなど、苦難の青年期を送っていた。挫折しそうな東山さんを救ったのは、恩師・結城素明の「よく自然を見てくるんだね。さあ、スケッチブックを持って、自然の中に入り、心を鏡のようにして見ておいで」との言葉だったという。
 私たちの心の原点は、故郷の自然や、祖先たちが積み重ねてきた文化にある。外に向かうことで受けるさまざまな刺激を、そんな心の中に取り込み、はぐくむことで、私たちはまた新たな表現へと向かうことができる。
 そうした「表現」という観点から宗教を見直すと、何か新しい発想が浮かんでくるような気がするのだが。

クョスコニョ    [1] 
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