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  平成17年11月5日号社説
  神話的知に学ぶこと
 深層心理学者ユングの下で学んだ河合隼雄文化庁長官は、日本の神話を分析してみるよう勧められたという。無意識の重要性に着目したユングは、民族の深層にある無意識が神話や説話の形で現れていることを発見し、実際の治療に応用している。
 日本人として初めてユング派精神分析家の資格を取得し、一九六五年に帰国した河合氏は、日本人を相手に心理治療を始めたが、スイスで学んできたことと、自分が日本人として体験することとの間に大きなギャップを感じるようになる。そうしたことから、日本人の深層にある無意識を知るためにも、日本神話の研究に取り組むことになったのだろう。
 
日本神話の中空構造
 その後、河合氏が発表し、吉田敦彦学習院大名誉教授が高く評価したのが、「日本神話の中空構造」である。古事記の最初に、「造化の三神」と呼ばれる、天の御中主とタカミムスヒ、カムムスヒという三人の神が登場する。ところが、名前からしても中心と思える天の御中主がどんな働きをしたのか、全く語られていない。後の二神の活躍が詳しく語られているのと対照的である。
 同じような関係の三神はもう二回登場する。黄泉の国から帰ったイザナキがみそぎをした時、左の目からアマテラス、右の目からツクヨミ、鼻からスサノヲが生まれている。ここでも、ツクヨミがどんなことをしたのかは語られない。
 最後は、海幸彦、山幸彦の話。海幸彦のホデリと山幸彦のホヲリとの間にホスセリというもう一人の兄弟がいた。その神のしたことは何一つ書かれていない。こうした「無為の中心」を持つ日本神話の特徴を、河合氏は中空構造と名付けた。そして、中心が空であるが故に、全体的に均衡がとられることから、中空均衡構造とも呼んでいる。
 そこから、日本の天皇制や西郷隆盛のような調整型リーダーシップについて論及し、欠点として責任の所在の不明確さ、無責任体質を指摘する。
 ユングは男性原理と女性原理の観点から心理分析したことでも知られる。河合氏によると、西洋神話が両者の決定的な対立にあるのに比べ、日本神話の特徴は最終的な和解にあるという。アマテラスの天上の国を荒らしまわったスサノヲも殺されることなく、その子孫から大国主が生まれる。
 男性原理は社会性を表し、押し出し、分断する特徴があるのに対し、女性原理は自然性を表し、受け入れ、結びつける特徴がある。人間は心理的な父親殺し、母親殺しを体験して、自我を確立していくというのがユングの説。それだと母親殺しのできない日本の男性は「永遠の少年」になってしまうと心配になるのだが、河合氏は決定的に対立しないで、バランスをとりながら成長していくのが日本人の特徴だという。ユングも、西洋の文化は男性原理を強調し過ぎる傾向があると警告しているので、要はバランスの問題なのだろう。
 
微妙なバランスの生
 日本のビジネスマンには三人の母がいるといわれる。産みの母と妻、そしてバーのマダム。「私は妻なのに夫は母を求めてくる」と嘆く女性もいるが、時には母のように振舞うのが賢い妻ではないか。男性は常に母のイメージを投影した理想の女性を求めるもので、その手掛かりを提供すると思えばいい。もちろん、男性にも自戒が必要なのだが。そんな夫婦の心理も、神話や説話を通し、民族の知恵として語り伝えられてきたのだが、現代人はそれを失っている。
 今は科学的知の全盛期だが、残念ながらそれで神話的知を代替することはできない。科学は死のプロセスを詳細に語ることはできても、死の意味についてはひと言も語れないからだ。だから、科学的知を否定しろというのではない。ここでも、両者のバランスが重要になる。
 考えてみると、生そのものが極めて微妙な均衡の上に成り立っている。何かの弾みでそれが崩れると、心理的、物理的な事故によって死の壁さえ超えかねない。だからこそ「メメントモリ」(死を想え)と、昔の人は叫んだのだろう。
クョスコニョ    [1] 
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