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   平成18年3月5日号社説
 

戦後を超える構想を

 二月に佐渡を数日旅した折、司馬遼太郎さんの『街道をゆく10羽州街道・佐渡のみち』(朝日文芸文庫)と松本健一さんの『北一輝論』(講談社学術文庫)を持参した。佐渡と聞いて思い浮かべるのは世阿弥に日蓮、そして北一輝なのだが、不思議なことに、「佐渡のみち」に彼らは一度も出てこない。主に七、八世紀の飛鳥時代と、江戸時代の金山の話だった。確かに、佐渡で能が盛んになったのは世阿弥ではなく、金山奉行として赴任した大久保長安の功績だと分かった。しかし、近代日本に大きな影響を及ぼした日蓮と北一輝に少しも触れようとしないのには、戦中派である司馬さんのこだわりを感じた。冬の佐渡は天候がめまぐるしく変わる。雪が降り積もった朝は、北一輝が思想的首謀者として処刑された二・二六事件を思わせた。

北一輝と日蓮
 司馬さんが仏教について書いているのは空海や最澄など平安仏教がほとんどで、奈良仏教や鎌倉仏教では親鸞や蓮如に少し触れるくらい。平安仏教は自分の救いが基調だが、鎌倉仏教になると大衆の救いという発想が生まれる。道元や栄西に始まる禅宗は鎌倉時代に主に武士に受け入れられ、日蓮宗は商人に、浄土宗・浄土真宗は農民に浸透していく。こうした大衆救済型の仏教を高く評価したのが今年没後四十年の鈴木大拙や同級生の西田幾多郎だった。西田は禅仏教の上に西田哲学を打ち立てる。ところが司馬さんは、鈴木も西田もあまり取り上げない。
 鎌倉仏教が日本を代表する仏教だと評価されたのは明治になってから。近代国民国家が造られる段階で、清沢満之ら仏教学者が西欧哲学から仏教を見直し、近代宗教として再構成する中でのことだった。高山樗牛や田中智学は日蓮宗に基づく過激な国家主義を唱えた。
 日蓮のナショナリズムは元寇の危機感から出てきたものだが、それは欧米列強の脅威を前にした明治時代と通じていた。さらに、国家は大衆を救わなければならないというのが日蓮の説く法華経で、政治が正しくないと国が壊れるという明確な意識があった。国造りを急ぐ明治にあって、個人的ロマンチシズムと国家的ナショナリズムに目覚めた人々が、日蓮を再発見していったのだろう。そこには、与謝野鉄幹や宮沢賢治、中里介山、石原莞爾らもいた。
 もっとも北一輝の生家は浄土真宗で、北の墓も両津にある真宗大谷派勝広寺にある。北が最初に引かれたのはキリスト教で、初恋の人に聖書を贈ったほど。内村鑑三やキリスト教社会主義者の堺利彦の影響を強く受けていたが、二十二、三歳のころ、日清戦争を「義戦」としながら日露戦争に反対した内村と訣別する。
 北一輝が日蓮信仰に目覚めた契機は、中国革命の中で親友の宋教仁が暗殺されたことだという。人間の力を超えた力を感じるようになり、『霊告日記』を書きだす。一方、法華経に引かれ、香港で買い求めてきた法華経八巻を皇太子時代の昭和天皇に献上している。大正五年に書いた『支那革命外史』は日蓮の「立正安国論」を模したもので、法華経の文句が引用されている。二・二六事件の青年将校に思想的影響を与えたとされる『日本改造法案大綱』を著したのは大正八年だった。
 
過去を未来に生かす
 大正十四年に神戸で、孫文は「大アジア主義」の講演をしている。日露戦争に勝った日本がアジアのナショナリズムを高揚させたと評価しながら、「西洋覇道の番犬となるか、東洋王道の干城(要塞)となるか」と問い掛けた。それに対して、西田幾多郎は「私は皇道を行くと提案したい」と言っている。西洋対東洋の構図ではなく日本独自の道を行くとの意味だが、それを西田の限界とみなす人が、とりわけ戦中派に多い。
 人間は自分の体験から自由にはなれない。戦中派の人たちには、それなりのうっ積した体験があるのだろう。しかし、過去は未来に生かされてこそ、歴史としての意味がある。グローバル時代の日本らしい生き方として、天皇の在り方を考えるべき時代なのではないか。戦後を超える構想力が今の日本には求められている。

クョスコニョ    [1] 
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