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平成19年4月5日号社説 |
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今、日本人の心は
一九九九年、栃木県鹿沼市で中学三年の男子生徒が自宅で首吊り自殺した事件をめぐる裁判で三月二十八日、東京高裁の第二審判決はいじめが原因と認め、慰謝料を一審より大幅に増額させた。 判決文の中で、「保護者自身に社会的規範が身につかず、子に範を示せない結果、いじめが増加したのでなければ幸いだ」と保護者のしつけの怠慢にも触れたことを、読売新聞三月二十九日付は社説で「痛烈な皮肉だろう」と評価している。これまで遺書など明確な証拠がないといじめと自殺の関連性を認めない判決が続いたが、潮の流れが変わりつつあるようだ。 スピリチュアリティ 島薗進東大大学院教授の『スピリチュアリティの興隆』(岩波書店)は、今の日本人の心を知る視点として興味深い。教授はスピリチュアリティ(霊性)を広く人間一般の心のありようとしてとらえる。「個々人が聖なるものを経験したり、聖なるものとの関わりを生きたりすること、また人間のそのような働きを指す」と。そして、一九六〇年代に米国で始まり、七〇年代にはニューエイジと呼ばれて先進諸国に波及した精神現象を、新霊性文化と呼んでいる。 新霊性文化の日本の先駆者として挙げるのが、有機農産物の普及を核に東京・西荻窪に「ほびっと村」を開いた山尾三省、霊的指導をする経営コンサルタント船井幸雄、ターミナルケアを導入した柏木哲夫、ウーマンリブの活動から鍼灸師を経てイメージ・トレーニングを開発した田中美津。 後者二人は意外だが、共通するのは自己の解放であり、それは自己を超えた大いなるものを見いだす。その意味で、各種のセルフヘルプ活動やいのちの教育、死の準備教育などもその範疇に入れている。 心霊世界の語り部・江原啓之は、英国でスピリチュアリズムを学んだのが原点。死生学やセラピー文化に伝統的な呪術性を取り込み、メディアの寵児となった。テレビの心霊番組なども新霊性文化の広がりと見る。 伝統宗教、とりわけ仏教は新霊性文化に好意的で、むしろ僧侶がスピリチュアリティに目覚めることを勧めている。西洋キリスト教世界においても、オカルトと区別した上で、エゾテリスム(秘教主義)の系譜として一定の支持を得ているという。 島薗教授は、七〇年代以降の日本は「社会の個人化」とともに「個人の宗教化」の時代を迎えたとする。従来の世俗化論は、「宗教の個人化」が「個人の宗教化」に結びつくことを見落とした。宗教的な権威やエリートの後光が失われるのに伴い、個人の霊性が興隆するようになったのである。その一つの現れが、グローバル化の中でのアイデンティティを再構築する動きで、神道の再評価やナショナリズムの高揚も同じだとする。 とりわけ興味深いのが、二十代から七十代まで百二十人の一般市民に人生観や信条を二―四時間聞いた「現代日本人の生き方」調査だ。ロバート・ベラーらの名著『心の習慣――アメリカ個人主義のゆくえ』の基になった調査をモデルにしたという。本書にはその一部が紹介されていて、仏教、神道、新宗教、キリスト教にそれぞれ属して活動している四人は、いずれも宗教教団の中にはむしろ宗教性が乏しいように感じ、外に向かって活動したいと考え、踏み出しつつある。また、はっきり離れて、気づきのセミナーや神秘的な癒やし、エコロジーなどの活動をしている人もいる。 新霊性文化の根づきを 私たちは気づかないだけで、今は一人ひとりが霊性、宗教性をとても大事にするようになっているのかもしれない。地球環境問題やボランティアへの関心の高まりも、新霊性文化の一つの要因と考えられる。 問題は、そうした志向性を正しく判断し、伸ばすような組織や仕組みづくりが遅れていることだろう。新霊性文化を根づかせるためには、宗教団体や教育機関をはじめ社会のさまざまな組織や機関、制度などが個々人の霊性を守り、生かしていけるよう変わっていく必要があるようだ。
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