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  平成20年10月20日号社説
 

日本的死生学の発信を

 『死生学』(全五巻、東京大学出版会)の刊行を記念し、編集者の島薗進東京大教授とノンフィクション作家の柳田邦男さんのトークセッションが九月二十八日、東京駅前の丸善で開かれた。そこで島薗さんが紹介したのが映画「おくりびと」。「納棺師という仕事に対して役者的に憧れてしまった」という本木雅弘さんが企画し、製作されたもの。モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞している。さっそく見て、感動した。
 
おくりびと
 映画は、チェロ奏者の主人公が、楽団の解散で妻と故郷の山形県に帰り、偶然、納棺師の仕事に就くことから始まる。驚きや戸惑い、周りの無理解を乗り越え、一人前の納棺師に育っていくプロセスが、庄内地方の美しい自然を背景に展開される。最後に、主人公は幼いころ、家を出て行った父親の遺体に出会い、その顔に化粧を施しながら、おぼろげだった父の顔を少しずつ明確に思い出していくという、父と子の関係回復の物語でもあった。
 納棺師について本木さんは「洗練された所作が非常に美しく、茶の作法のようであり、パフォーマンス性もある。つまり、淡々と遺族の心に寄り添いながらも、しっかり最後の記憶として残るようにサービス的抑揚もつける。……そして、数時間後には焼かれて消えていく人を綺麗に整え、最後の時間を慈しむという人間同士のひたすらやさしい想いが全体を覆っている。僕は自分の子どもの出産に立ち会いましたが、そのときと同じ悦びさえ感じました。つまり生まれることも、亡くなることも、そして迎えることも、おくり出すことも同価値であると」と語っている。
 二〇〇二年に東大文学部が中心になって始めた二十一世紀COE(文部科学省科学研究費補助金の特別推進研究)「死生学の構築」は、欧米で発達した死生学の成果を取り入れながら、日本的風土における死生学を構築し、それを世界に発信することを目指したという。生と死を峻別するキリスト教的風土の欧米では「死の学」だが、生と死が表裏一体の日本では「死生学」がふさわしい。同プロジェクトは終わり、〇七年からはグローバルCOE「死生学の展開と組織化」が進められている。そのシンポジウムなどに出て感心するのは、一般市民の参加、それも若い人たちが多いことだ。
 何歳ごろから死について考えるようになるかは個人差が大きいだろうが、それが人生を深く考えるきっかけになるのは共通しているように思う。一人称の死は体験できないだけに、答えのない問いを考え続けるしかない。それが、人として生きていく覚悟を固めさせてくれるのではないか。
 戦時中に少年時代を過ごし、昭和二十年には結核で兄を、そのショックで父を、ニューギニア戦線で伯父を亡くし、一年に三回葬式をしたという柳田さんは、死が日常的だった時代から非日常的になった今を、「死が見えにくくなった時代」と言う。生の充実だけがテーマになるのは半面、人間として鍛えられないことを意味する。それが、日本人をひ弱にしてしまい、年間三万人を超す自殺者の大きな背景をつくったのではないか。具体的には、団地化が進み、家から仏壇や神棚がなくなったことが大きい。
 十六日に本紙講演会に登場したヘブライ大名誉教授のベン・アミ・シロニーさんは、『ユダヤ人と日本人の不思議な関係』(成甲書房)で、両者ともキリスト教の受容を拒絶したが、その理由は正反対で、「ユダヤ人は宗教が何よりも大切なものだったから」だが、「日本人は宗教などどうでもよかったからである」と書いている。確かに、高度経済成長期の日本を見たシロニーさんにはそう見えただろう。
 
人生設計の見直し
 経済に翻弄されるような人生であってはいけないと、つい最近も日本人は感じたのではないだろうか。自分のライフステージを、経済のみを指標に設計してはならないと。それが死生学への強い関心にも現れているように思う。
 だから宗教の出番なのだと言えるといいのだが、肝心の宗教の側は準備ができているだろうか。現代人を納得させるような知と情の所作が求められている。

クョスコニョ    [1] 
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