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平成23年2月5日号社説 |
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宗教者の役割を問う
「日本および日本人は、果たして恣本の理念揩普遍的な言葉と気概をもって世界に提示できるのであろうか。より根源的には、いかなる価値観を拠り所に波風荒い大洋への怺C図なき航海揩ノ乗り出さんとしているのであろうか」 これは佐藤栄作元首相の恂ァ使揩ニして米ニクソン政権のキッシンジャー氏と渡り合い、沖縄返還に情熱を注ぎ、命を削った若泉敬氏が『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』の跋に遺した言葉である。京都産業大学で講演した三十代後半の同氏の、颯爽とした姿を思い出す。氏の遺作を読み返すと、世紀を超えて同じ課題が、より深刻な状況で私たちに突き付けられていた。 国家意識の喪失 昨年も年間の自殺者が三万人を超え、いわゆる「無縁死」も三万二千人に上った。百歳以上の行方不明者は社会を支えてきた家族の崩壊を警告し、都会でも地方でも孤独な独り暮らしが増えている。 昨年、奈良での平城遷都千三百年祭で改めて感じたのは、古代アジアの文化遺産が保存され、それ以上に今の人たちの心に生きていたことだ。インドや中国では滅んでしまったいくつかの仏教が、日本では今も人々の信仰を集め、学び続けられている。それには、大陸から適度な距離にある島国という地政学的な意味に加え、恫a揩旨として暮らしてきた神道に代表される日本人の霊性が大きく影響していると思われる。 中国大陸に近い日本は、古代から大陸国家として生きるか、海洋国家として生きるかの二つの道の選択を迫られてきた。幕末には、坂本龍馬が構想した海洋国家日本が時代の回転軸となり、近代国民国家を形成することができた。 朝鮮半島を起点として起こったロシアの軍事的脅威を、英米と連携することで、跳ね返すことができた。全体主義的な大陸国家の侵略を防ぐには、自由・民主の価値を同じくする海洋国家との関係を強めることしかないことを、ドラマ「坂の上の雲」は物語っている。ロシアに加え中国の脅威が増している現在の日本をめぐる国際政治の構図は、日露戦争の時代と変わらない。 国力に圧倒的な差のあった日本が大国ロシアに勝てたのは、何より新生日本の国民が「国民の戦争」として日露戦争を戦ったからだ、と司馬遼太郎さんは語っている。あの時代、国民になった気概が、一人ひとりに溢れていた。 戦後六十六年の今、私たちにとって国はとても軽いものになってしまった。その軽さが、国家意識が旺盛な隣国の跳梁を許しているのかもしれない。若泉氏は前掲書で、経済優先でやってきた日本が「ひたすら物質金銭万能主義に走り、その結果、変わることなき鎖国心理の中でいわば恚者の楽園揩ニ化し、精神的、道義的、文化的に恪ェ無し草揩ノ堕してしまったのではないだろうか」と嘆じている。 勿論、感情的なナショナリズムで対抗することは避けなければならないが、国家に対抗するには国家しかない今の世界の現実を、もっと認識する必要がある。幸いなことに私たちには、明治からこの方、戦陣に散り戦火に斃れた数多くの人たちの尊い犠牲により、貴重な遺産が残されている。 社会参加を 二十一世紀の宗教には、これまで以上に「社会参加」が求められている。人々が安心・安全に暮らせるために、どんな役割を果たすべきか、財政を含めた国家の在り方にまで踏み込んで、真剣に考え、行動に移していく必要があるだろう。 愛する人の死を悼む心情から始まった宗教には、歴史的に人々の心の安らぎから鎮護国家まで、いろいろな役割が課せられてきた。 霊性という言葉に置き換えられるように、宗教の起点は人間を超えた天であり、宇宙の究極実在と言える。天から人間社会のありようを見ることで、問題の所在が明らかになろう。 宗教者には何よりもその立場から、今の時代に、今の人たちに必要な言葉を発し、行動を起こすことが求められているのではないか。
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