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  平成23年2月20日号社説
 

日本再建の遠くて近い道

 前外務事務次官の薮中三十二(みとじ)さんは『国家の命運』で、外国の人たちが日本についてもっとも心配しているのは急速な少子高齢化だが、これに対する日本人の危機感のなさが理解できないと言う。例えて言うなら、敗戦に匹敵する国難なのである。
 NHKでは今年も無縁社会の問題に取り組んでいるが、衝撃的だったのは、二十代の若者たちまでそれを実感しつつあるということだ。背景に不況に伴う収入減やセーフティーネットの不備があることは確かだが、問題はそれだけではないように思える。
 
感性から霊性へ
 鈴木大拙は日本的霊性の発現を鎌倉時代として、それに大きな影響を与えたのが禅宗と浄土宗という内的要因であり、加えて外的要因として蒙古襲来という国難による国家意識の高揚があったと言う。その文脈で考えると、今の日本人は個人としても、社会のためにも生きる力を失いつつあるのではないだろうか。
 鎌倉仏教を禅宗と浄土宗に代表させたのも興味深い。前者は自力、後者は他力であり、個の確立と絶対者への帰依という、人間の在り様の両極を志向しており、すべての人はその中のどこかに位置して生きている。個人の主体性を基本とする近代への準備が、精神面で既に始まっていたと言えよう。
 古代の日本人は、この世とあの世とを重なり合うものとして感じていた。あの世に包まれてこの世があると言ってもいい。他界した先祖は子孫の近くにいて、見守っているという感覚だ。同様な精神性を、自然界に対しても持っていた。
 仏教がもたらした浄土思想も、そうした古来からの他界観と習合することで、日本人に受け入れられた。日本人の感じる浄土は、インドで語られたようにはるか西方にあるのではなく、私たちの生活空間のごく近くに存在しているのである。
 東北大学教授の佐藤弘夫さんによると、中世の人々は神社に参詣しても浄土への往生を祈っていたという。神仏習合というより神仏一体、神仏補完の信仰が日本的霊性の実態であったのである。浄土真宗がもっとも発展したのは江戸時代であるように、近世においても浄土、他界は日本人の心に大きな位置を占めていた。
 霊性とは、目に見えないものを見る、信じる力でもある。それは死者だけではない。生きている家族も、離れていれば、存在を想像するしかない。想像できなくなると、生きていても、死んでいるのと同じになってしまう。無縁感が強まるのは、他者や社会という見えない仕組みに対する感性が衰退しているからではないか。少し飛躍して言うと、霊性の枯渇が、人を思いやり、国のことを考える力を削いでいるのである。
 欧米にならった明治以来の近代化は、主に列強の侵略を防ぐという外的要因に力を得て、遂行されてきた。しかし、もう一方の内的要因については、神仏分離の断行から迷走という宗教政策を見ても明らかなように、成功したとは言えない。さらに、先の大戦の敗戦によって日本人は伝統精神の否定を体験し、歴史を正しく見る目を失ってしまった。
 戦後の経済復興に続く高度成長は、日本人に敗戦の苦しみを忘れさせるほどの物質的な豊かさをもたらしたが、その社会で今、私たちは無縁に苦しんでいる。それが、近代という時代を超える現代が直面している課題であろう。
 
生きる力の根源
 養老孟司さんは、絵画と音楽の重なる部分が言葉だという。言葉で表現される世界は、もっと深くて広い感性の世界によって支えられているのである。生きる力などという言葉で説明できない力は、言葉ではなく感性から出てくる。
 その感性の基に霊性があることは、絵画や音楽の発達史からも明らかだ。逆に言うと、霊性に基づかない感性は危うさを含んでいる。無縁社会の番組で、人のために生きようとすれば縁はできてくるという識者がいたが、その前に、人を身近に感じられる感性、さらには霊性が必要だろう。
 本来の日本人の霊性を取り戻すことこそが、日本再建の遠いようで近い道だと思う。

クョスコニョ    [1] 
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