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  平成23年9月20日号社説
 

水と緑と土と生きる

 台風12号に伴う記録的な豪雨は、紀伊半島はじめ各地に大きな被害をもたらした。和歌山県那智勝浦町の那智熊野大社では崩れた大量の土砂が本殿に押し寄せ、社殿が被災した熊野本宮大社の九鬼家隆宮司は「明治の大水害で大社が流され、当地に移転して来年で百二十年という節目の大災害」と語っていた。熊野古道でも土砂崩れがあった。早い復興を祈りたい。
 手入れされた山でも限界を超える降雨があると深層崩壊を起こす。大規模な土石流は山津波とも呼ばれる。三月十一日の東日本大震災に伴う大津波から半年を前に、私たちは山でも津波が起こる国土に住んでいることを思い知らされた。
 
 治水は治山に在り
 日本が狭い国土に多くの人口を養いえたのは、豊かな水がはぐくんだ土と緑のおかげであるが、それは人々の努力によって実現されてきた。最初の水田は水の管理が容易な山すそに開け、工具や技術の発達に伴い、平地へと広がっていった。行基や空海が溜池の造成にかかわったことはよく知られている。長岡京で河川の氾濫に苦しめられた和気清麻呂は、平安京の治水に努めた。
 武田信玄や加藤清正ら戦国武将は戦以上に治水で民に安心をもたらした。近くにある石材を利用し、水流を合理的、経済的に弱める「信玄堤」は今も機能しており、さらに途上国に移転されている。山形県米沢市には直江兼続の築いた石堤が、今も大切に保存されている。「川を治める者は国を治める」のが日本の風土だが、中国にも「黄河を治むるものは天下を治む」との言葉があるので、これは世界共通なのであろう。
 治水の見識が高い豊臣秀吉が徳川家康を関八州に封じたのは、利根川が氾濫する不毛の湿地帯だったからだが、家康は利根川を江戸湾から太平洋に分流させ、豊かな関東平野を造った。これに当たった勘定奉行の伊那備前守忠次は、三代六十年を投じている。同様の工事は淀川でも実施され、東西に水の都が現れたのである。
 さらに、淀川を整備した河村瑞軒が「治水は治山に在り」と説いて山腹も工事し、植林を進めたように、熊沢蕃山、野中兼山ら治水家は優れた治山家、林業家だった。
 近年、多くの都会でも見られるようになった親水空間が、人々に心の癒やしをもたらすのは、水に強く自然を感じるからだろう。その背景には、水への恐れもある。そこで先人たちは水分神(みくまりのかみ)や水神を水源地や水路の分岐点に祀り、洪水や渇水がないことを願ってきた。田植えを終えたばかりの水田には、水の取り入れ口に花を飾るのが慣わしである。
 さらに水は古来から人々の交通路でもあったので、宗像神社や住吉大社をはじめ金刀比羅宮など海運、水運にかかわる神々は多い。水という最も自然らしい自然に逆らうことなく、その力を使わせていただきたいとの願いからだった。
 近現代になって交通は水上から陸上が主体になり、川や海には高い堤防を築いて水を防ぎ、田んぼにはパイプラインを敷設するようになって、私たちはいつの間にか、自然は支配できるものだと勘違いする部分があったのではないか。少し歴史を学ぶと、それが人間の傲慢であることはすぐ分かるのに。
 曽野綾子さんが読売新聞九月十一日号日曜版に、三浦半島に畑を持ち、家も建て、週末には畑仕事をしている、と書いている。「私はそこで土から作物を採って生きるという人間の暮らしの基本を知った。だから私は消費経済に浮かれなかった。子供に農業の基本を教えないと、人間の精神は舞い上がる」と。
 
海に重なる浄土
 生命を産み出し、豊かな幸をもたらしてくれる海は、その半面、死の影を漂わせている。人々は海に沈み行く太陽を見ながら、そこに浄土のイメージを重ね合わせた。四国や熊野の海では、小舟にしつらえた小屋に僧が入って沖に出る、補陀落渡海の捨身行があった。板子一枚下は地獄の世界だからこそ、浄土があると思いたかったのだろうか。
 自然を畏れることが、自然と付き合う基本であることを、先人の信仰や思想、言葉は教えている。そうした感性を取り戻す努力が、現代人には必要なように思える。

クョスコニョ    [1] 
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