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平成23年10月20日号社説 |
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寺田寅彦の教訓に学ぶ
「天災は忘れた頃に来る」と言ったとされる戦前の物理学者で地震学者の寺田寅彦は、随筆「日本人の自然観」でヨーロッパと日本の地質の違いを述べ、だからこそ日本には特別な役割があると言っている。 野田佳彦首相が九月二十四日(日本時間)、国連総会において東日本大震災における各国からの支援に謝意を示した上で「原発事故の点検結果を国際社会と包み隠さずに共有し、原子力安全の水準を高めるための国際社会の取り組みに貢献する」と演説したのは、あたかも寺田の言葉をなぞるかのようであった。 震災から七カ月が経過し、日本は本当の底力が問われている。 慈母にして厳父 ヨーロッパ大陸が古く安定しているのに対して、日本列島は新しく不安定で、しかも大陸の東側にあるため、台風など海洋性の気象の影響を受けやすい。寺田は次のように述べる。 大陸の辺縁のもみ砕かれた破片のような日本の地質構造は複雑多様で、さらに火山や台風などが特異な国土を形成してきた。そこから、日本の大地は「母なる土地」であると同時に、しばしば刑罰の鞭をふるう「厳父」でもあるとし、「厳父の厳と慈母の慈との配合よろしきを得た国がらにのみ人間の最高文化が発達する見込みがある」と。 それに比べて西欧諸国は、「自然の慈母の慈愛が案外に欠乏し」「厳父の威厳の物足りなさも感ぜられた」と述べ、そんな風土だから、「自然を恐れることなしに自然を克服しようとする科学の発達には真に格好の地盤であろう」と思ったという。そんな西欧で発達した科学を、日本は文明として受け入れてきた。文明としてというのは、批判精神が足りなかったということでもある。 そして寺田は、「もしも日本の自然の特異性を深く認識し自覚した上でこの利器を適当に利用することを学び、そうしてたださえ豊富な天恵をいっそう有利に享有すると同時にわが国に特異な天変地異の災禍を軽減し回避するように努力すれば、おそらく世界じゅうでわが国ほど都合よくできている国はまれであろう」と述べている。 事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所の原子炉は、GE社製のを東芝と日立製作所が導入したものだ。北米大陸と比べても、日本の自然条件は厳しい。大津波による全電源喪失は「想定」しておくべきだった。民間企業としての対応を超えているのであれば、原発推進を決めた政府が責任を持って対処すべきだった。原発事故直後の対応がもたつき、最悪の事態を招いたのも、菅直人前総理が国家としての意志を明確に示さなかったことが一番大きい。 ちなみに米国は、対テロ戦争の重要な一つとして原発の防御に対応し、過激派に乗っ取られた航空機が原子炉に突入し、原発が全電源を喪失した事態を想定したシミュレーション訓練も定期的に行っているという。原子力という危険なエネルギーを扱うには、常在戦場の態勢と緊張感が不可欠なのだろう。文明社会は危機と背中合わせの社会でもあることを、私たちは忘れていたようだ。 恐ろしいことは起こらないと考えたがる欠点のあることを、私たちは大きな代償を支払って学習した。それは、和を重んじる日本人が陥りやすい問題でもあろう。一方、日本には現実をありのままに見て危機を予測し、責任を取る武士道の伝統もあった。悲観ばかりして自虐の回路にはまってもいけない。 復興のスピードを 絶望的な被害にもかかわらず、人々がパニックに陥らず、冷静に行動している姿を見て、世界は日本人の素晴らしさを評価し、百二十六カ国とそれを上回る民間団体からの支援が寄せられた。日本はそれほど世界から愛されているのである。一方、この間、中国機やロシア機に対するスクランブル出動は以前の二倍、三倍となり、隙を見せると付け込む国が近くにあるのも、残念ならが事実だ。 日本は何より復興のスピードを上げ、堅固で価値の高い国土を再生しなければならない。
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