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平成24年4月5日号社説 |
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ちゃんと宿題をする
一八三二年三月二十二日午前十一時半に満八十二歳で亡くなったゲーテは、最後に「もっと光を!」の名言を残したことで知られる。深い意味がありそうだが、実は、天井が低く窓の小さい小部屋に寝かされていたから、昼前なのに、本当に部屋が暗かったのだ。 絶筆に当たるのは、病床に就く十日前に、知人の孫に書いた四行詩。「戸口を掃除しよう/すると町はきれいだ/宿題をちゃんとしよう/するとすべて安心だ」 『ファウスト』も訳しているドイツ文学者の池内紀(おさむ)さんは、「ものものしく解釈される『もっと光を!』よりも、童心に帰った四行詩こそゲーテ最後の言葉にふさわしい」と言う。(『ゲーテさんこんばんは』集英社文庫) 決められない政治 四月は新学期が始まり、新入社員が仕事を始める。社会という人間集団の中で生きていくには、自分の役割を知り、責任を果たしていくことが大切だ。宿題をちゃんとすることが、仕事をちゃんとこなせる自分を育てていく。文豪にして思想家、自然科学者でもあったゲーテの膨大な知識も、幼い子供に向けては、分かりやすい言葉になって発せられる。 それにしてもこの国には、宿題をちゃんとできない大人が多過ぎる。消費税の値上げは、わが国の人口動態や社会保障にかかわる財政規律や税収との関係から、当たり前のことなのに、民主党の中にさえよく分からない理由で足を引っ張る集団があり、自民党は値上げには賛成だが、手続き論で反対している。 それぞれに聞けば理由はあるだろうが、日本という国が抱えた宿題をちゃんとやろうという気持ちが弱い。それだけ政治家が小さくなったと言うか、選ぶ国民も利己的になってしまっている。 決められない政治になったのは、政治家一人ひとりが自己完結的でなくなったからだろう。自分で決めないで、誰かに依存して決めようとする。かと言って、その誰かを尊敬しているわけではない。多くは単なる利害でつながっているだけだ。 しかし、ゲーテは言う「つまるところ人は何をめざすのか?/世を知って軽蔑しないでいること」。世の中のことをいろいろ知るのはいいが、軽蔑するようになっては元も子もない。どこかで、自分の軸がずれてしまっているのだ。 「科学と芸術を知れば/おのずと宗教をもつ/科学も芸術も知らなければ/おのずと宗教にすがる」というのも意味深い。ゲーテは宗教家の長ったらしい説教に閉口したようだ。 釈迦もイエス・キリストも直接語った言葉はシンプルで分かりやすいのに、経典や神学になると急に難しくなる。それは後の人たちの自己保身の始まりだろう。 竹が短期間に伸びるのに、風が吹いても折れないのは、節があるからだ。人も苦節があってこそ成長する。先端の科学や技術は失敗の連続というのが常識の世界である。失敗を反省し、積み重ねることで、より強い未来を開くことができる。日本は二千年に及ぶ歴史を、危機を乗り越えることで発展させてきた。東日本大震災も、生まれ変わった日本のきっかけとして、後の世に語り継がれるようにしなければならない。 今を生きよう 好奇心の絶えることがなかったゲーテも「気力をなくすると一切を失う/それなら生まれてこぬがいい」という気分に陥ることもあった。今で言うならうつだろうが、うつにならないためには、自然も含めて周りとの関係を快適に保つことだ。 ゲーテは自宅の庭に多くの花や木を育てている。各地の石を収集する趣味は有名だ。小さな命の芽吹きや、ちょっとした励ましが、生気をよみがえらせてくれる。助け合って暮らしてきた日本人が、急速に孤立化している現状を、何とか変えなければならない。 多くの宗教が共通して教えているのは、今に誠実に向き合うこと。「今に生きよ」である。ゲーテは愚痴ばかり話す幼友達の話を我慢強く聞きながら、「どうしてすぐに/いやになるのだ/今が宝/昔は屑」という四行詩をメモっている。どんなことがあろうとも、投げ出してはいけない。自分を励ましながら、今を生きよう。
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