施策に社会モラルの視点を
子宮頸がんワクチンの副反応について検討している厚生労働省の副反応検討部会は六月十四日、同ワクチンを接種した女子から副反応の報告が相次ぎ、重篤なケースもあることから「積極的勧奨を一時控える」と議決した。 子宮頸がんワクチンは本年四月から定期予防接種の対象となったことから、政府は、地方自治体を通してワクチン接種を勧奨する案内を、対象となる小学校六年から高校一年の女子に送っていた。 今後は、予防接種の案内は届くが、接種の効果とともに副反応などのリスクも伝えられ、積極的には勧めていないことが説明されることになる。
性モラルの低下招く もっとも、厚労省は「接種の利益があるので、完全にやめるわけではない。どの程度のリスクか情報開示できるレベルになるまでの間は、勧奨を控える」と説明しているので、ワクチンの信頼性を確保する情報を集め、医学的評価を重ねて、問題がないとなれば積極的勧奨に戻るとの姿勢は変えていない。なお、ワクチン接種には一人約五万円かかるが、その全額が公費で補助される。 厚労省によると、子宮頸がんワクチンは二〇〇九年の販売開始から今年三月までに三百二十八万人が接種し、副反応報告は千九百六十八件に上り、うち百六件は運動障害が残るなど重篤なケースである。同時期に定期接種化となった他ワクチン(ヒブ・肺炎球菌)に比べて副反応出現率は高い。 同ワクチンは副反応が続出したことで問題になったが、見過ごされてならないのは、同ワクチン接種が対象年齢の女子たちに与える倫理的影響である。 子宮頸がんは子宮の出口に発生するがんで、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって発症する。同ウイルスは性交渉によって感染するため、性交渉を控えればほぼ感染することはない。近年、子宮頸がんの発症が低年齢化しているのは、性的関係をもつ年齢の低下を示すものでもある。 そのため、同ワクチンの接種を推奨する医師の中には、「セックスデビュー前に」というキャッチフレーズまで使って、あたかも低年齢での性交渉を前提としたような表現でワクチンの効果をうたう例もある。娘に届いた市役所からのワクチン接種の案内に同封されたパンフレットを見て、「ワクチンを打てばセックスもオーケーという内容で驚いた」と語る親たちも多い。 アメリカでも六年前から、同種のワクチン導入をめぐり、州議会での議論が行われたが、効果についての長期的な調査の不足や、青少年の性モラルを低下させる恐れがあるなどの理由で、法案決議に至らない州が相次いだ。そのため、公的援助でワクチンを接種しているのはワシントンDCだけという。 子宮頸がんワクチンの効果そのものに疑問を呈する専門家も多い。感染源のヒトパピローマウイルスは体内に入っても、通常二年以内に自然消失するし、ワクチンで予防効果のあるのは、がんの原因となるヒトパピローマウイルスの六割に満たないからだ。 同ワクチン接種で子宮頸がんが予防できるのは十万人に七人、重篤な副反応が出るのは二十八人で、リスクは予防効果の四倍にもなるという。子宮頸がんは検診で見つかればほぼ治療できるので、検診車や検査器具、医師を増やし、また、検診を無料にするほうがはるかに好ましいのである。
宗教界の感度は? アベノミクスで医療は将来の重要な成長の柱であり、この分野での規制緩和や研究投資が進められることは重要である。しかし、施策を実施するに当たっては、それが社会倫理に及ぼす影響も慎重に検討されなければならない。 子宮頸がんワクチン接種が法制化された背景には、製薬会社の激しいロビー活動があったという。政治家をはじめ官僚、医師らの専門家にも、社会モラルからの視点が求められている。あえて言えば、こうした問題に日本の宗教界の感度は低過ぎるのではないか。
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