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  平成26年4月20日号社説
 

「憎まない」という生き方

 書評で紹介している『それでも、私は憎まない』の著者でパレスチナ人医師イゼルディン氏の来日講演会が去る二月、都内で行われた。二〇〇九年のイスラエル軍による攻撃でガザの自宅にいた娘三人と姪を失いながら、憎んで自分がテロリストになると、悲劇の悪循環に陥ってしまうから、「憎まない」と言う。その生き方が感動を呼んでいた。
 彼は事件の前年、妻を急性白血病で亡くした。なぜ、こんなことが自分に起きたのか考えた彼は、自身を聖書に出てくるヨブに重ねて、「わたしも試され、そして解決策を打ち出すことを期待されていると感じている。神を信じる者として……、今こそ、すべてのパレスチナ人とイスラエル人が平和に共存する道を見つけられるように」と書く。

過去は学ぶためにある
 二〇〇六年にガザ地区の難民キャンプを訪ねたことがある。住宅街がイスラエル軍の攻撃で破壊された跡地に大きなテントを張り、四十家族、二百人以上が共同生活を送っていた。イゼルディン氏の育った環境はもっと厳しい。
 理不尽な仕打ちを受けると、誰でも憎しみの感情が湧いてくる。それは人間として自然な心の動きであるので、避けることはできない。だから、彼の前に講演した鎌田實氏は、「憎しみや悲しみはあるが、それを横において」と語った。
 ガザの難民キャンプで生まれ、貧困の中で、家族を助けるため子供のころから働きながら、助けてくれる人に恵まれたイゼルディン氏は、カイロ大学の奨学金を受け、医学部を卒業する。そして、学生時代に生命誕生の奇跡に感動したのがきっかけで産婦人科の道に進み、不妊治療の専門家になっていく。その間、何度もテロリストになる誘惑を退けている。
 ガザに住みながらイスラエルの病院に通い、治療に当たるようになった彼は、医師としてパレスチナ人も平等に治療するイスラエル人がいることを知り、自身の偏見を修正していく。そして、医療の専門職を生かしながら、双方の仲介役となる活動を始めた。
 次のような言葉は敬虔なムスリムゆえだろう。「この世で起きることにはすべて理由があり、わたしの家族に起きた悲劇的な喪失さえ、何かの役に立つと信じている。娘たちの死はイスラエル人の目を対岸の苦しみに見開かせた。それこそが『私たちの現状がどんなものかを知る勇気をもってください』という、わたしが広めたいメッセージなのだ」。彼の声がイスラエルのテレビに流されたことで、ガザ攻撃の中止が早まったという。そして「希望はある。過去はただ、そこから学ぶために存在する」と。
 現在、残された子供たちとカナダのトロントに住む大学准教授のイゼルディン氏は、娘三人の追悼基金を創設し、パレスチナ人女性の教育向上に役立てようとしている。女性の価値観が社会のすべてのレベルに大きく反映されるようになると、社会全般の価値観が変化し、パレスチナやイスラエル、ひいては中東全域の生活が改善されるだろうとの思いからだ。「これが娘たちを追悼するためにわたしが望む、彼女たちの死がもたらす遺産だ」と言う。
 講演では、「娘たちは、いつも私の目の前にいて聞いてきます。『私たちがいなくなった後、お父さんは何をしたの』と。娘たちの死を生かすこと、これ以上、不幸を生まないために働くことが、彼女たちに対して私ができることです」と語っていた。

声をあげる者に
 講演の終わりにイゼルディン氏は、ナチスの収容所から生還したドイツの神学者マルティン・ニーメラーの詩を引用した。
 「ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった/私は共産主義者ではなかったから/労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった/私は労働組合員ではなかったから/ユダヤ人が攻撃されたとき、私は声をあげなかった/私はユダヤ人ではなかったから/そして、彼らが私を攻撃したとき/私のために声をあげる者は、誰一人いなかった」
 宗教心に根ざした平和活動は、常に自身に問いかけを発しながら進められる。太陽がその光を万人の上に平等に降り注ぐように、正義も偏りなく行われなれければならない。

クョスコニョ    [1] 
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