|
|
購読お申し込み・お問い合わせはこちらフォーム入力できます! |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
平成20年8月5・20日合併号社説 |
|
|
|
ランディ教授「最後の授業」
昨年九月、米国カーネギーメロン大学で「最後の講義」を行ったランディ・パウシュ教授が十カ月後の今年七月二十五日、四十七歳で亡くなった。昨年八月にすい臓がんで余命三〜六カ月と宣告された教授の最終講義の題は「子どもの頃の夢を実現すること」。教授は壇上で腕立て伏せをするほどの快活さで、自らどのようにして夢を実現してきたかを語った。この講義はインターネットで世界の六百万人以上が受講し、米紙記者が編集した著書『最後の授業』は三十カ国語に翻訳され、世界的なベストセラーになっている。 夢の手助けを その講座は、何より六歳を頭にした三人の子供たちへのメッセージとして語られた。今はまだ理解できないだろうが、大きくなった時、父がどんな思いで彼らを育ててきたか知ってほしいからだ。それをわが家で一人で語ったのでは真実味が出ない。やはり仕事場である大学で、教え子らを前にしてこそ真剣に語れ、予想以上の成果が出せると、バーチャル・リアリティーの世界的権威である教授は考えた。 八歳の時、アポロ宇宙船により人類が初めて月面を歩くのを見た教授の夢とは、@無重力を体験するA(アメリカンフットボールの)NFLでプレーするB百科事典を執筆するC(「スタートレック」)のカーク船長になるDぬいぐるみを勝ちとるEディズニーのイマジニアになる――だった。教授はそれらを障害を乗り越えながら実現してきた。そこで、「障害とは、その向こうにある何かを自分がどれほど真剣に望んでいるかを証明するチャンスだ」と教える。 「教師の第一の目標は、学生がどのように学ぶかを学ぶ手助けをすること」と言う教授は、人としての生き方を基本にしながら必要な知識を教えた。「人生を正しく生きれば、運命は自分で動き出します。夢のほうから、きみたちのところにやって来るのです」と。 最近の悲惨な事件を起こした若者たちは、いずれも自分の夢がかなえられない不満を家族や社会にぶつけている。「誰でもいいから殺したかった」「親を困らせたかった」という言葉は、私たちに今の教育や子育てがどこか大きく間違っているのではないかと思わせる。もちろん、彼ら自身の責任が第一だろうが、それをいくら追及しても答えは出てこないだろう。 それより、例えばランディ教授の「学生が自分をどのように評価するかを学ぶことを、僕は手助けしたい」という言葉に注目したい。多くの若者は正しい自画像が描けていない。自分の能力や欠点、他人の評価を正しく認識してない。そんな若者に対して教育者の一番の役割は「内省する手助けをすることだ」と言う。 教授の講座は学生に四人ほどのチームを作らせ、チームワークがよくないと成果が出ないような進め方をする。それは、社会に出ればどんな仕事も共同体によって実行されるからで、その共同体の倫理を教授は常識と呼んでいる。「権利は共同体から発生し、その見返りに僕たち全員は共同体に責任を負う」と。ところが、教授の二十年間の経験から、その関係を理解していない学生が増えているという。個人主義の米国で共同体主義を説く教授はユニークだが、案外それが米国の底力なのかもしれない。 人生を楽しむ 「親が子供に具体的な夢をもつことは、かなり破壊的な結果をもたらしかねない。僕は大学教授として、自分にまるでふさわしくない選考を選んだ不幸な新入生をたくさん見てきた」という言葉に反省させられる親も多いだろう。そして「親の仕事とは、子供が人生を楽しめるように励まし、子供が自分の夢を追いかけるように駆り立てることだ」と。 ランディ教授は人生を楽しんだ人として記憶されている。夢を追いかけるから楽しいし、楽しいから一生懸命になれる。それがコンピューター・サイエンスに向けられた結果、教授は学生が楽しみながらCGのプログラミング言語を学べるシステムを開発した。そこから育った学生は、映画「スターウォーズ」などの製作現場で力を発揮している。 なお、ランディ教授の「最後の講義」はインターネットで視聴できるのでお勧めしたい。
|
|
|
|
|
|
|
|
特集 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
社是 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|