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  平成18年6月5日号社説
 

朝鮮半島とパレスチナ

 五月十七日、イスラエルとヨルダンの旅に成田空港を出発する朝、新聞各紙の紙面には民団(在日本大韓民国民団)と総連(在日本朝鮮人総連合会)のトップ会談の見出しが躍っていた。半世紀にもわたる対立を経ての和解協議の始まりだ。その背景には、高齢化が進むそれぞれの構成員たちの、年金はじめ生活保障の問題がある。イデオロギーや建前より生活を優先させるという現実的な発想に転換すれば、やがて共に生きる道は開かれてくる。対立を続けるイスラエルとパレスチナにそんな日は来るのだろうか。
 
 ヨルダン川
 イスラエルとヨルダンの国境を流れるヨルダン川は、ガリラヤ湖に源流を発し、死海に流れ込む。エジプトを脱出したユダヤ人はヨルダン川を渡ってカナン(今のパレスチナ)に入り、イエスはヨルダン川で洗礼ヨハネから洗礼を授けられている。ガリラヤ湖の東にはゴラン高原が広がるが、これは一九六七年の第三次中東戦争の勝利でイスラエルがシリアから獲得したもの。貴重な水源なのでイスラエルは手放そうとしない。
 ガリラヤ湖はイエスが最初の弟子、漁師のペテロを伝道した所として知られる。当時の船に模した遊覧船が運航していた。今やホテルや別荘が建ち並ぶ一大リゾート地で、飲料水にも使われるという湖水の汚染が心配になる。死海は湖面がかつてより十メートルも下がり、湖岸のヒルトンホテルが廃墟になっていた。雨の少ない地域だけに、今後さらに水問題が深刻になるだろう。
 ヨルダン川をはじめナイル、チグリス・ユーフラテス、ガンジス、メコン、ドナウ、ラインなど世界には多くの国際河川があり、その開発、水利用が紛争の種になりがちだ。とりわけ二十一世紀は水をめぐる紛争が懸念される。
 半面、世界で最も国際化が進んでいるEU(欧州連合)は、ドナウ、ラインなどの国際河川の共同利用から、国際関係の技術や文化を発展させてきた。生命の維持に不可欠な水の利用をめぐる協議は、中東和平に一つの展望を開くのではないか。
 十九日には、昨年九月にガザを追い出されたイスラエル人のキャンプを訪問した。一九八四年に入植した四十世帯二百三十人が、シャロン政権の決定で家を失い、その一部が、抗議の意味を込め、隣接地でキャンプ生活をしていた。政府からの補償は全くないという。
 二十日には、イスラエルが一方的に進めている壁を視察した。パレスチナ人の生活を分断して立ちはだかる高いコンクリートの壁には、「ウオール・マスト・フォール」と落書きされていた。まさにここは戦時下であることを痛感させられる。
 古代、カナン人に次いでペリシテ人が住んだことからこの地がパレスチナと呼ばれたように、パレスチナは民族名ではない。パレスチナ人は、一九四七年までパレスチナに居住していたアラブ人、もしくはそれ以後、パレスチナ人を父親として生まれた者とされ、前者にはユダヤ教徒もいる。一方、ユダヤ人は、ユダヤ人を母親として生まれた者、またはユダヤ教に改宗した者で、他宗を信仰していない者と定義される。
 この地の占領者は、エジプト、ヒッタイト、カナン、フェニキア、ペリシテ、ユダヤ、アッシリア、バビロニア、ペルシャ、マケドニア、ローマ、イスラム、十字軍、トルコと移り変わってきた。その間、パレスチナ人は住み続け、今イスラエル国籍を持っているパレスチナ人も約百二十万人いる。
 今のようになった原因や歴史をさかのぼれば複雑で切りがないが、それより現に住んでいる人たちの生活を考えることが重要だろう。
 
 平和の果実を
 感心したのは野菜や果物の味がいいこと。地方をバスで走ると果物畑が広がっていた。もっともキブツは農業だけでは経営できず、工場やホテルなど多角化していた。
 かつて乳と蜜が流れる地といわれた地だけに、平和の果実が実る条件は用意されている。まずは戦争より平和を志向するよう人々の心を変えることが必要で、宗教間の対話・協力の目的もそこにある。

クョスコニョ    [1] 
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