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  平成23年5月20日号社説
 

美しい真心からの再生

 五月十五日、入江泰吉奈良市写真美術館で「入江泰吉 大和路巡礼5―山の辺・宇陀・吉野―展」を見た。同館ロビーで万葉の花の生け花展を開いていた主宰者の片岡寧豊さんに誘われたのがきっかけで、思いがけず懐かしさを感じる風景に出会った。
 それは「春宵山の辺の道」と題する風景写真で、山の辺の道に咲いた桃の花越しに、夕日の射す二上山が見えるもの。その山頂には悲劇の死を遂げた大津皇子が葬られている。二上山を遠景にすることで、入江は風景写真に歴史を語らせようとした。
 後に大和路の写真家として名を成す入江が、敗戦による放心状態から抜け出し、仏像の写真を撮り始めたのは、亀井勝一郎の『大和古寺風物誌』を読んだのと、米国が賠償として日本の古美術を持ち帰るという噂を聞いたのがきっかけだという。入江四十歳の再出発だった。
 
 被災地のスイセン
 天皇皇后両陛下の被災地慰問で印象に残ったのは、四月二十七日、仙台市宮城野区の避難所で、津波で流された自宅の庭に咲いていたスイセンの花を、その家の女性が皇后陛下に差し上げたことだ。かつて阪神淡路大震災の被災地を見舞った時、皇后陛下は御所の庭に咲いていたスイセンを被災地に手向けられたことがある。東京に戻り、搭乗機から降りられる皇后陛下の胸には、被災地のスイセンを握る手がしっかり当てられていた。そのお姿に、被災地の人々のことを祈り続けておられる両陛下の日常を感じたものである。
 私たちの心は美しいものや真実に出会うと、感動し、うれしくなり、力が出てくるように思う。たとえ小さな出会いでも、それが日常生活にあることで、何か新鮮な気持ちになれる。
 茨木のり子さんが「ぱさぱさに乾いてゆく心を/ひとのせいにはするな/みずから水やりを怠っておいて……自分の感受性くらい/自分で守れ/ばかものよ」(自分の感受性くらい)という叱責のような詩を残したように、私たちには自分の感性を守り育てる責任があるのだろう。もしかしたら、それは親よりもっと先の祖先や神から授けられたものかもしれないからだ。
 入江は一九〇五年、奈良・東大寺の旧境内に生まれ、二十歳で大阪の写真機材店に就職し、アマチュア写真家として腕を磨いた。その後、独立して店を構え、商業写真や記録写真を手掛け、頼まれて文楽を撮影したことが転機となり写真家に転じた。しかし、空襲で家を焼かれ、夫婦で奈良に戻り下宿生活をしていた。
 仏像の写真を撮り始めた入江は、東大寺法華堂の四天王を撮影した時、その視線に自らの心が見通されているように感じ、自身の姿勢を正されたという。やがて、仏像から寺院、風景へと入江の撮影対象は広がり、志賀直哉や会津八一、小林秀雄、亀井勝一郎、棟方志功、杉本健吉らとの交流から、写真に深い物語性を持たせるようになる。
 そして、最後にたどり着いたのが、今も昔と同じように大和に咲く万葉の花々だった。『万葉集』を学んだ入江は、古代の人々と花との深いかかわりを知り、その美しさを再発見して、「花は究極の美」と考えるようになったという。以来、一九九二年に没する晩年まで、大和の山野をくまなく歩き回り、万葉の花を撮り続けた。
 ある座談会で入江は、賀茂真淵の「いにしえの世の人の歌は真心なり」という言葉を引用して、「この真心が人を動かす」と語ったという。
 
人の真心の美しさ
 人類の宗教心の表れとして、イラクで発掘された古代人の人骨に花粉が付着していたことが、よく挙げられる。親しい人の死を悼む気持ちを、美しい花に託したのであろう。
 そして、私たちをもっとも感動させるのは、真心で振る舞う人の美しさである。被災地で活動する自衛隊や自治体職員、ボランティアなどの人たちの姿に、それを見ている。東電福島第一原子力発電所でも、多くの無名の人たちが命懸けで作業している。その感動こそが、日本と日本人を本来の姿に立ち返らせ、奇跡の復興を実現させると信じたい。

クョスコニョ    [1] 
 前のテキスト: 平成23年6月5日号社説
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