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  平成23年6月5日号社説
 

再生日本の始まりに

 大震災が人々の生き方を変えている。かけがえのない家族の大切さに気づき、結婚したい女性が増え、大阪では結婚指輪の売り上げが50%も伸びたという。子供と遊ぶ時間を多くしたり、親しい人と小まめに連絡を取るようになるなど、人とのつながりを大事にするようになった。阪神・淡路大震災は日本のボランティア元年と呼ばれたが、それよりさらに深い変化を日本人にもたらしているように思う。
 生きている意味を問い続けるのが人間なので、大きなショックを受けるような出来事に遭遇すると、なおさらそうなる。その直後は茫然自失になったり、もって行き場のない憤りを感じたりするだろうが、やがて心の奥底から納得のできる答えを探そうとする。
 
 思想を深めた震災
 日蓮が立正安国論を鎌倉幕府に上奏したのは外国の侵略を予想したからだとされるが、直接のきっかけは、千葉から鎌倉に出てきた日蓮が大地震に遭遇したことであった。それから三年間、日蓮は静岡の実相寺にこもり、立正安国論を書き上げる。
 法然から日蓮まで、鎌倉仏教の宗祖には百年ほどの開きがあるが、そもそも平安末期の天災と社会不安が、新仏教誕生の背景にあった。浄土宗は下層の人たちにも救いの道を開き、禅宗は釈迦本来の仏教を再認識させ、最後に登場した日蓮は、神道と習合した密教も包含し、護国仏教の伝統さえ取り入れた。鎌倉仏教の幅広さが日本人の精神性を広め深めたと言えよう。
 「雨ニモマケズ」の詩が被災地に流された岩手の宮沢賢治は、法華経の久遠実成(くおんじつじょう)の教えに引かれた。釈迦は過去から永遠の存在である仏(悟りを開いた者)であり、三十五歳で釈迦として地上に現れたという考え方で、人類の救いのためイエス・キリストを誕生させたキリスト教に近い。家族との絆が強い東北で、とりわけ若くして死んだ妹トシへの思いが、賢治の信仰を深めたのではないか。
 自然の恵みを受け、その厳しさも知りながら暮らしてきた人たちは、災害をもたらした自然への気持ちも複雑だろう。しかし、生きるためにはひたすら働くしかない。法華経の言う「地涌(じゆ)の菩薩」のように、人のために生き続けることを賢治は理想とした。
 これが戦争になると、責任論が主題になる。『宮本武蔵』などで軍国日本に同化するような小説を書いてきた吉川英治は、それを自らの過誤とし、戦後しばらく筆を執らなかった。自称民主主義者の糾弾を受けながら、晴耕雨読の日々を送り、思索を深めていた。
 そして、「慙愧漸く晴心一掃を得た」として敗戦後を歩み始め、週刊朝日に連載したのが『新・平家物語』である。勝者よりも敗者に心を寄せ、滅び行く者の美学を描いて、国民の圧倒的な共感を呼んだ。歴史は勝者が書くのが常だが、敗者や過誤の中にも真実はあることを、誰もが知っていたからだろう。戦後民主主義者が、やがて底の浅さを露呈していくのと対照的だ。
 西洋史では、一七五五年に起きたリスボン地震と津波が、ヨーロッパの啓蒙思想に大きな影響を与えたことが知られている。この地震を機に、カトリック大国ポルトガルは凋落を始めた。ルソーは都市への集中が被害を招いたとし、「自然へ帰れ」と訴えた。一方、カントは「崇高」さを哲学的に深めたという。また、彼が地震情報を集め、地震のメカニズムを考えたことが地震学の始まりとされる。
 
 天皇陛下の「祈り」
 自然との一体感や強い共同体意識は、古来からの日本人の特性だった。戦後六十年、もっと言えば明治からの百五十年が、それと違う方向に進んできた。しかし、失われたわけではない。思い直し、足元を掘り起こせば、源泉にたどり着く。
 それに気づかせてくれたのが、天皇陛下の「祈り」のように思う。祈る存在だった人間が、祈りを忘れてしまっていたのを、いつも国民のために祈ってこられた天皇陛下が、思い出させてくれた。それこそが、ごく当たり前の日本人の生き方なのだと。
 後世の歴史家が、あれが再生日本の始まりだったと書くような日々を、刻んでいきたい。

クョスコニョ    [1] 
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