アフリカのスピリチュアリティ
六月一日から横浜市で日本政府が主催する第五回アフリカ開発会議(TICAD)が開かれ、アフリカの約五十カ国の首脳らが出席した。安倍晋三首相は今後五年間で、官民合わせて三兆二千億円の資金でアフリカの成長を支援することを表明し、精力的に首脳会談を重ねた。 一九九三年に始まった同会議は、アフリカへの支援の在り方を議論してきた。この二十年間、日本はバブル崩壊後の経済低迷や円高による輸出力の減退で、アフリカだけでなく世界的に存在感を後退させてきた。ここにきて、ようやくデフレ脱却の道筋が見え始め、円安により輸出力も回復しつつある。この機会に、最後の巨大市場とされるアフリカとの好ましい関係を築くことは、日本の将来にとって必要不可欠の要件である。 もっとも、アフリカとの関係は経済のみに偏重すべきではない。人類は十四万年から二十万年前、アフリカで生まれ、世界に拡散していったとの学説が有力であり、アフリカには人類誕生のロマンが秘められている。
日本らしい協力を アフリカはヨーロッパ諸国による植民地化とともにキリスト教が布教されたが、豊かな自然にはぐくまれた先祖崇拝や、輪廻転生の考えに基づく死霊や悪霊との戦いなどの精霊信仰は根強く残されている。 龍谷大学仏教文化研究叢書として編まれた落合雄彦編著『スピリチュアル・アフリカ』(晃洋書房、二〇〇九年)によると、そうした中からアフリカ独自のキリスト教も生まれ、文字よりも声を重視する信仰として発展しているという。人類が文字を持つようになってからよりも、声だけの時代のほうがはるかに長かったので、そうした信仰が残っていることは学問的にも貴重であろう。 貧困や飢餓から脱却し、人間らしい暮らしができるようになるには、経済開発が不可欠である。二〇〇〇年にニューヨークで開かれた国連ミレニアム・サミットでは、極度の貧困と飢餓の撲滅や乳幼児の死亡率の改善など八つの分野について、二〇一五年までに達成すべき数値目標「ミレニアム開発目標」を掲げ、各国の協力を呼びかけた。ゴールまであと二年半となったが、アフリカでは八つの分野のうち、貧困と飢餓や普遍的初等教育、乳幼児の死亡率など五つで目標の達成が危ぶまれている。 今回のTICADで「援助から投資・貿易へ」が主題になっているのは、アフリカ諸国が持続可能な経済発展を意識し、それが可能になってきた状況を反映している。 平和と女性の地位向上に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞したリベリアのエレン・サーリーフ大統領は、会議の間のインタビューで「インフラを整備してくれたからといって、資源を上げるようなことはしない」と語っていた。同国に進出している中国は、病院を建設するだけでなく、医師や看護師の育成など長期的な協定を政府間で結んでいるという。日本が出遅れを回復するには、同じような政府の積極的な取り組みが必要である。 グローバル競争に直面している企業にとって、インドと同じ市場規模のアフリカを無視することはできなくなっている。これまで自動車に偏重していた日本からの輸出を、家電から食品まであらゆる分野に拡大していく努力が求められている。消費者のニーズをきめ細かく拾い上げ、優れた技術で応えていけば、日本の強さを発揮することができよう。 今年一月のアルジェリア人質事件のように、懸念される安全上の課題については、政府の意志を明確に示した。安倍首相が、サハラ砂漠南縁部のサヘル地域に対し、開発・人道支援として今後五年間で一千億円の拠出を表明し、テロ対策・治安維持能力強化に二千人の人材育成支援も発表したのである。
宗教界の出番 経済開発に伴い、伝統文化の衰退や公害、環境破壊などの課題が起こることは、日本がかつて経験してきたことである。そうした経験を踏まえ、アフリカ諸国にとって望ましい発展の在り方を共に探り、協力していくことが、これからのアフリカ支援には欠かせない。鍵になるのは人づくりであろう。 日本の経験を途上国の発展に生かす取り組みは、日本の国づくりにも反映されよう。そう考えると、スピリチュアリティの分野で宗教界の出番もありそうに思える。
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