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平成21年6月5日号[天地] |
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善光寺の帰り、島崎藤村が「千曲川旅情の歌」を詠んだ小諸を訪ねた。信濃鉄道の小諸駅近く、小諸城址の懐古園には藤村記念館があり、「小諸なる古城のほとり」の歌碑が旅情をそそる。信州馬籠村に生まれた藤村は、上京して銀座の泰明小学校を卒業し、明治学院に進む。そこで彼に洗礼を授けた木村熊二らが小諸に開いた小諸義塾に、教師として赴任したのだ。もっとも、明治女学校の教え子と恋愛関係になったことから、キリスト教の信仰はその前に捨てている。記念館で『藤村詩集』と最初の散文集『千曲川のスケッチ』を買った▼その後、駅まで引き返し、タクシーで布引観音へ。絶壁に建てられた赤いお堂に感心しながら、険しい石段を下り、帰りは四キロほどの道を歩く。雨で増水した千曲川は、やや旅情に欠けるが、これが現実だろう。田植えの最中で、ところどころ耕作放棄の田もある。黒いシートをかけているのはアスパラガスか。急ぎ足で四十分。帰りの車中で『〜スケッチ』を読むと、似たような風景があった▼藤村はここで写生を実践している。古老たちの話を聞き、見たこと、体験したことをそのまま記す。牛や豚の屠殺も見学している。心に映ったありのままを自然な言葉で表現しようとの思いが、詩から散文へと藤村を向かわせた。明治の文豪たちが切り拓いてきた言葉の世界を、大切にしたいと思う。
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