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平成22年6月5日号[天地] |
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口蹄疫が発生した宮崎県で大量の牛や豚の殺処分が進められている。宮崎大学獣医学科にいる天地子の息子に電話で様子を聞くと、牛の移動が禁じられているため解剖実習ができないでいるという。家族同様に育ててきた牛を殺さざるを得ない畜産農家の人たちの心は、どれほど悲痛なことだろう。わが家でも昭和三十年代までは耕作用の牛を飼っていたので、その気持ちは少し理解できる▼四・五ヘクタールほどの農地では暮らしていけないことから祖父が牛の仲買業、いわゆる博労を始め、それを父が継いだ。当時の農家はどこも牛を飼っていたので、博労の仕事は農家のために子牛を買ってきて、大きくなるとそれを肉牛として売ること。神社の境内に牛市が開かれると、父と一緒によく見に行った▼岩手県には南部曲り家という、馬と家族が一緒に暮らす家がある。友人から習った民謡「南部牛追歌」の、伸びやかで哀調を帯びた旋律が懐かしい。本来、家畜は少しの数を家族同然に育てるものだった▼耕運機の普及で牛飼い農家が減り、博労の仕事がなくなった父が牛舎を建て、五十頭ほどの肉牛を飼いだしたように、大量に飼わないと採算は成り立たない。しかし、大量生産には大量被害が付きまとう。近代産業の宿命とも言えよう。伝統の良さを取り込み、近代産業を健全にする道はないものかと思う。
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